
このサイトは明後日に向かって全力疾走する、迷走を目的としたサイトです。
1話
星を見上げていた。
部屋の横にある不必要に広いベランダから、先日入手したばかりの梯子をかけて屋根に上り、
今年最後となる、お気に入りのカップのそばをすすりながら。
「じゅう、きゅう、はち、なな、・・・」
雲ひとつない澄みきった空に、、やさしく包み込むような星々の光。
いや、こんなに修飾したら言い過ぎかもしれない。
実際はただ普通に晴れて、普通に星の綺麗な空だったような気がする。
そう。あるものしかなく、無いものはない、いつもと変わらない星空だった。
ただ、そんないつもどおりの星たちの中に、一つだけ不思議に光る星を見つけた。
小さいけれど、深くて、蒼くて、優しい光だった。
見ていると吸い込まれそうなその光にそっと手を伸ばしてみる。
凍てつく冬の空気にかじかんだ手が光に触れた。
突然、目の前が真っ白になった。
眩しくて目を閉じた。その直後、
「―――ッ!!??」
僕は大きな衝撃を受けて後ろに突き飛ばされた。
単に星を見ながらそばを食べていただけだというのに。アニメのように吹っ飛んだ。
肩と背中を強くぶつけたようだが、耐えられない痛みでもなかった。
屋根からはみ出た頭と右肩、雨樋にすっぽりはまった左腕。
あと数十センチ飛んでいたら犬神家の再現をするところだったと思うと、
さすがの僕も冷蔵庫の本気をかいま見た野菜王子のようにわなないた。
何が起こったのか訳が分からなかった僕は、
もう一度目を開き、目を見開いて、驚いた。
目の前に移った光景が、さらに僕を混乱させる。
別に違う世界に迷い込んだわけでも、幽霊になってたわけでもない。
ここは僕の家の屋根の上だし、まだ身体も五体満足のようだ。
むしろそんなことが起きるなんて本気で信じているような年でもない。
夢もロマンも持ってはいるが、同時に現実も持ち合わせているから。
だけれども、目を見開いたその先にあったものは、
望んでいたけれど、受け入れられないような、そんな現実・・・いや、幻想だった。
息を整え、もう一度目を閉じ、目を逸らす。
ふと頬に冷たい感触を覚え、僕は空を見上げる。
「雪・・・?」
さっきはあんなに晴れていたのに?
そういえば、今年の初雪だ。今年の雪は何しようかな。
沢山積もったらかまくらを作って七輪でもち焼きとか、いいな。
やっぱり日本人と言えばもちだよな!
完全に逃避を始めた僕の眼前に、
目を背けたい現実が「ひょこっ」という擬音と共に入り込んできた。
「縺縲∝、ァ荳亥、ォ縺ァ縺吶°・・シ・シ・」
何か言葉を発したようだが、英語の点数がすこぶる悪い僕には、
今の言葉が英語か否かすら認識できない。
だが、よく分からない言語だから多分英語なのだろう。
とりあえず僕も言葉を返す。
「あけまして、おめでとうございます・・・」
自分で言っておいてなんだが、訳が分からない。
だが相手には何かが伝わったようで、また言葉を返してきた。
「縺ゅ√∴・槭▲縺ィ縲・
あけまして、おめでとうございます・・・」
この子はバイリンガルなのだろうか。
少し悩みながら英語(だと僕はあくまで言い張る)で言葉を発したあと、
ご丁寧にも流暢な日本語で新年のご挨拶を返してきた。
完全に状況を飲み込めない僕は、いまだ受け入れられない現実を前に、
「今年もよろしくお願いします」
完全に意味不明な言葉を繰り出していた。
それを聞くと、怪訝な顔をしながら聞き返してきた。
「はじめまして、だよね?」
「うん。」
「おもしろいひと。」
彼女はクスッと笑った。
この子が普通に喋れることにも驚きだが、
自分がこの意味不明な状況で普通に喋っていることのほうが驚きだった。
とりあえず会話は成り立つようなので、僕は当然の、
新年の挨拶よりも先にするべきである、一番の疑問をぶつけた。
「お前は一体何者なんだ?」
「ん〜、うちゅうじん?いや、異世界人って言ったほうが的確かな?」
とんだ電波ちゃんだ。だがもう分かった。こいつにこの手の質問はいくらぶつけても無駄だろう。
だとしたら僕がこのキレイなペンダントをして、
羽衣のようなかなり変わった服を着た彼女に向ける次の言葉はこうだ。
「重いからちょっとどいてくれないか?」
その言葉でやっと自分が僕に対してマウントポジションを取り続けていたことに気づいたのか、
彼女は跳びはねるように立ち上がった。
頭が回らないのは、ずっと屋根の斜面に逆さまに倒れていたせいなのか、
突き飛ばされたときにどこか悪いところを打ったのか、
それともいまだにこの状況にパニックになっているだけなのか。
正直、目の前にある現実が理解できない。
名探偵も頭を抱えて尻尾を巻いて逃げ出すような光景だ。
家の屋上で、空を見上げていたら、突然何かが光り出して、少女が落ちてきた。
あぁ。多分こんなところで間違いないだろう。
変なところを打って頭がおかしくでもなっていないのであれば、これで正しいはずだ。
金色のふわふわした髪と、雪のように白い肌。
お人形さんみたいという表現をよく使うが、まさに人形そのもののようなかわいらしい少女だった。
暗くてよくわからないが、顔はどことなく外国人風な雰囲気だ。
そんな子が、どうやら僕を突き飛ばしたらしい。
だがどう考えてもおかしい。
僕の住む世界では晴れのち少女という天気は無い。
眼鏡の大佐に追いかけられでもしない限りは、基本的に少女というのは降るものではないはずだ。
僕はこれから天空の城でも目指さなければいけない運命なのか?
そんなくだらないことを考えるうちに、
世界を白く染め上げようとしている雪に頭を冷やされ、
僕の脳内だけでは結論は出ないだろうという結論を導きだせたところで、
僕は彼女にこう問いかける。
「お前はどこから来たんだ?」
彼女は少し悩んだ顔をしたあと、満月のような素敵な笑顔で人差し指を空に向かってまっすぐ立てて見せた。
20XX年1月1日午前0時0分0秒――――
僕は一人の少女と出会った。
天変地異か何かは知らないが、突然降り出した雪を見て寒さを覚え、
僕はひとまず彼女を部屋へ招く。
「繧ュ繧ケ縲√@縺。繧・>縺セ縺励◆繝サ繝サ繝サ」
そのとき彼女がなにか呟いたようだったけど、英語の出来ない僕にはよくわからなかった。
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